1章情報セキュリティエンジニアのための機械学習入門

1.1 なぜ情報セキュリティエンジニアに機械学習の知識が必要なのか

人工知能(Artificial Intelligence:AI)技術が私たちの暮らしを変えている。たとえば画像認識の領域では、がん病変の内視鏡画像を学習させることによって、がんの内視鏡による診断支援技術が、その精度を飛躍的に向上させていることが知られている。ほかにも、私たちの暮らしを支える重要なインフラである水道管の劣化が問題となっているが、そうした水道管の配管素材や使用年数、過去の漏水履歴といった要素を使用して水道管の破損確率を算定し、破損する前に取替などの作業に着手ができることを実現するAI技術もある。あるいは、たとえば空間統計情報、天気予報、過去のタクシー乗車実績などの要素を活用して、タクシーの需要予測を算定し、効率的な配車に活用しているといった事例もある。このように、機械学習や機械学習の一種であるディープラーニングのようなAI技術が私たちの暮らしを変えているニュースは、いまや毎日のように耳にする。

情報セキュリティの領域もその例外ではない。たとえばウイルス対策ソフトには、機械学習を使用したエンジンが搭載されるようになった。これは既知のマルウェア検体からメタデータを大量に抽出して学習させることで、既知の検体に相似したファイルを自動的に検出できる、というものだ。あるいは侵入検知システム(Intrusion Detection System:IDS)の製品として、平常時の通信状況を学習させたうえで、その平常の範囲に当てはまらないものを異常として見つけ出すことで検知をする、というものも存在する。また、自然言語処理を使って迷惑メールを検出するソフトも2000年代初頭から存在している ...

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