第3章テックリード
テックリード(tech lead)とはプロジェクトに携わるエンジニアチームの「技術上のリーダー」のことです。私が初めてテックリードになったのは、もう何年も前のことです。シニアエンジニアに昇格したのち、数人のシニアエンジニアから成る小さなチームで仕事をしているうちにテックリードの役を任されました。チームでは職位の点でも経験年数の点でも最上位ではなかったので少々意外な展開でした。でも今思い返してみると、2、3の点で私が適任だったように思います。ひとつは、エンジニアとしての腕が良いだけでなくコミュニケーションにも長けていた点です。明快なドキュメントを書けましたし、極端に緊張したり感情的になったりしてプレゼンテーションを台無しにするようなこともありませんでした。他チームや他の役割の人たちとも臆さずに話し合い、経過や事情を説明することもできましたし、優先順位を付けて仕事を片付けることも得意で、次に何をなすべきかを的確に判断する力ももっていました。さらに、たとえプロジェクトがのっぴきならない状況に陥っても、進んで修復に努め、とにかく前へ進むためなら何でもやろうという気概にあふれていました。以上のような実際的な即応力が最終的な決定要因になったのだと思います。やはりテックリードは(企業によっては正式な管理職でない場合もありますが、その場合も含めて)リーダーシップが求められる役割なのです。
私はまた、テックリードの役目をうまく果たせずに四苦八苦する人たちの姿も目の当たりにしてきました。中でも忘れられないのは、コードを書かせたらピカ一の腕前を見せる、あるエンジニアがテックリードを務めた際の苦労です。この人は人と話すのが大の苦手で、おまけに技術的な細部にこだわって脱線してしまうことがたびたびありました。枝葉末節にかかずらって道に迷い、どんどん深みにはまっていくのですが、そんなテックリードの「不在」をよいことに、プロダクトマネージャーがまだまだデザイン上の不備が山積の機能を強引にデリバリさせようとチームを急き立てるのです。当然プロジェクトは混乱状態に陥りましたが、くだんのテックリード氏がどう対処しようとしたかと言うと、なんと次のリファクタリングで解決しようと言うのです。問題の原因はすべてコードの構造にある、と信じていたからです。これを読んであなたも「聞いたような話だ」と思ったのでは? なにせよくある状況ですから。現に「テックリードには、誰よりも経験豊富なエンジニアを任命するべきだ。最高に複雑な機能でも難なくコード化できるエンジニア、誰よりもすばらしいコードが書けるエンジニアを」という勘違いが、ベテラン管理者の間でさえ珍しくありません。プログラムの作成作業に思う存分没頭したいと望む人はテックリードの適任者ではありません。テックリードがそういう作業に没頭しているとすれば、その人はテックリードの職務を果たしているとは言えないのです。ではそのテックリードの職務とは一体どういうものなのでしょうか。私たちはテックリードに何を期待するべきなのでしょうか。 ...
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