6章テック企業で働くということ

テック企業で働くと、なんだかこれまでとは違った感じがする。それはテック企業の「人の動かし方」の違いによるところが少なくない。この章と次の章では、ビーズクッションや無料のラテ、卓球台といった福利厚生の話ではなく、実際にテック企業で働くと見えてくるものや感じられるものを、働いている人の視点から探っていきたい。

まずこの章では、テック企業での人の動かし方と、エンタープライズ企業ではあまり見られないマネジメント手法を扱う。次の7章では、テック企業がもっと速く仕事を進めていくためにどんな投資をしているのかを具体的に見ていく。

本章と次章は「気づき」を与えることを狙いにしている。テック企業で働くというのはどんな感じなのか、その感覚をつかんでほしい。何も考えずにそのままコピーすることのないように、ひと口に「人を動かす」といってもテック企業は具体的にどうやっているのか、そのためにどんな文化を生み出そうとしているのか、なぜテック企業の従業員は仕事を楽しめているのかが伝わるようにするつもりだ。

6.1 フラット化する世界

1957年6月、サンフランシスコのClift Hotelに集まったRobert Noyceと7名のアメリカ国内で最も優秀な科学者とエンジニアたちは我慢の限界に達していた。会社の創業者であるWilliam Shockleyとはもうこれ以上、一緒に仕事をすることが耐えられなくなっていたのだ。トランジスタの発明でノーベル物理学賞を受賞して以来、Shockleyのエゴの肥大化とマネジメントスタイルは、彼の類いまれな能力の輝きを失わせてしまっていた。

Shockleyは硬直的な権威主義者になってしまった。彼を喜ばせることはできない。自分自身で下したまずい決断を他人のせいにするようになった一方で、他人の手柄を自分のものにするようになってしまった。自分自身以外によるアイデアや視点を受け付けなくなった。基本給を超える利益を従業員に還元する方法を何も提供しなかった。Shockleyのひどいマネジメントスタイルは、社内にいたスマートで進取の気性のある科学者やエンジニア全員を遠ざけることになってしまっていた。 ...

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