付録A

ドメイン駆動設計の実践:事例研究

 この付録では、私がどのようにドメイン駆動設計に取り組むようになったかを紹介します。つまり、あるスタートアップの会社(ここでは仮にマーケットノバス社と呼びます)の物語です。

 マーケットノバス社は、設立当初からドメイン駆動設計の手法を採用しました。そして、ドメイン駆動設計に取り組む時にやりがちな、あらゆる失敗を経験しました。さまざまな失敗とやり直しの経験から、多くのことを学びました。ソフトウェア開発を成功させるために、ドメイン駆動設計の考え方とやり方がどういう役割を演じるかの具体例として、マーケットノバス社の失敗とやり直しの物語を紹介します。

 この物語は前半と後半に分かれています。前半はマーケットノバス社が取り組んだ五つの区切られた文脈の物語です。どういう判断で文脈を区切り、その結果がどうなったかを紹介します。後半では、マーケットノバス社の事例が、この本の内容にどう反映されているかを説明します。

 この物語の説明を始める前に一言。マーケットノバス社は現在はすでに存在していません。つまり、これから説明する内容はマーケットノバス社の宣伝ではありません。もうどこにもない会社なので、何が起きたかをありのままにお伝えできます。

A.1 五つの区切られた文脈

 区切られた文脈とその設計の詳細を掘り下げる前に、ドメイン駆動設計の本来のやり方として、マーケットノバス社がどんな事業活動をする会社なのかを明確にするところから始めます。

A.1.1 マーケットノバス社の事業活動

 新製品や新サービスを開発したとして、それをどうやって販売すればよいでしょうか?マーケットノバス社のサービスを利用することで、販売促進に関わるあらゆる活動を外部に委託できます。マーケットノバス社の専門スタッフが販売戦略を立案します。マーケットノバス社のコピーライターやグラフィックデザイナーが販売促進に使うバナーやランディングページを提供します。販売促進活動で獲得した見込み客にマーケットノバス社の営業担当者が接触し、新商品を売り込みます。この一連の活動は図のようになります。 ...

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