リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり

3章投資リスクをモデル化して計測する

懐疑は愉快な状態ではないが、確信は馬鹿げている。

ヴォルテール

スタートアップと同様に、新しいビジネスモデルや製品を実験する企業における最大のリスクは、ユーザーに価値を届けるものを作ることに失敗することです。リーンスタートアップのフレームワークを使えば、ユーザーに価値を届けないアイデアや理解されないアイデアをすばやく捨てることができ、リソースをムダにせずに済みます。このリーンスタートアップの背景にある原則は、社内ツールの構築・プロセス改善・組織変革・システムのリプレース・GRC（ガバナンス・リスク・コンプライアンス）プログラムなど、企業内のあらゆる種類の活動に適用できます。

本章では、情報を収集して不確実性を減らすことにより、計画した作業のリスクを管理する体系的な手法の原則と概念を紹介します。このフレームワークは、第Ⅱ部で紹介する新しい機会を探索するときの実践的な手法の基盤となります。

3.1　投資リスクをモデル化する

企業では通常、物事を先へ進める承認を得る前に、ビジネスケースとそれを支える計画書を作る必要があります。そのためには、提案が生み出す価値を見積もり、それを詳細なドキュメントにするチームが必要です。ビジネスケースには、必要なリソース、依存関係、最終的にきれいにまとめられた一連の数字を書きます。そこには、計画された作業のコスト・主要指標・リソース計画・期間が詳細に記載されています。詳細の度合いや必要だと見積もられた投資額の金額によっては、このプロセスが完了するまでに、数週間から数か月かかることもあります。

計画プロセスの重要な役割は、投資判断をサポートすることです。投資判断を下すには、投資のリスクを十分に理解する必要があります。ダグラス・ハバード ...