5章「聴くこと」とは理解すること

「しゃべりすぎ」ではなく「人の話の聴きすぎ」で仕事をクビになるなんて、あり得ない。カルビン・クーリッジ

さて、ステークホルダー相手の会議や打ち合わせ(S会議)で披露するデザイン案が仕上がり、相手の反応を予測するなど、プレゼンテーションの準備も完了したら、次はいよいよプロジェクトに対して影響力を持つステークホルダーと会話する段階です。ここからが我々デザイナーにとってはまさにコミュニケーション能力の見せ所なのですが、まず求められるのは「伝える力」ではなく「聴く力」です。

「聴く」というのはあらゆる人間関係に欠かせない大切なスキルで、S会議の場合も例外ではありません。「聴く」とは、ただ単に「相手の話がひと段落して自分が応対する番になるのを待つこと」ではありません。聴くこと、傾聴、すなわち「注意を払い関心を持って相手の話に耳を傾けること」の目的は、自分が応対する前に相手が話したいこと、伝えたがっていることを理解することなのです。

適切、明確な応対をする上で効果的な傾聴の手法には、暗示的なものと明示的なものがあり、暗示的なものの例としては、相手をさえぎらずに耳を傾ける、言外の含みを察する、相手が解決しようとしている真の問題を突き止める、応対をする前にひと呼吸置くなどがあり、明示的なものの例としては、メモを取る、質問をする、相手の言ったことを繰り返したり言い換えたりするなどがあります。こうした手法を実践すれば、「私はあなたの話を理解していますよ」というシグナルを発することができます。ステークホルダーのうち、デザイン系の専門用語や業界用語が通じる人はめったにいないので、我々デザイナーの側でじっと耳を澄まして相手の言葉を自分のデザインと関連づけるための手がかりを見つけ、応対する際には一般の人に理解できる言葉を選ぶ必要があります。最適、最良の応対をするためには、まず相手の言うことを正確に理解しなければなりません。 ...

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