13章ビジョンのためのデザイン
画家が手にする報酬は、労働への対価ではなくビジョンへの対価だ。ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
この本の執筆を終える前に、あえて最終章を設けて特筆しておきたかったことがあります――それは「デザインが組織の発展に対しても製品やサービス開発に対しても持ち得る意義」です。たいていのデザイナーは自分の職務を「自社の製品やサービスをデザインすること」だと考えており、プロダクトデザイナー、ウェブデザイナー、ユーザーインタフェースデザイナーといった肩書きを持っています。ただ、そうした役割と職務を介して、デザイナーは会社全体のビジョンや視点をも生み出しています。つまりデザイナーは、単なる物作りにたずさわるだけでなく、会社の事業を創出してもいるビジネスデザイナーでもあるわけです。会社という組織を変え得るほどの、そんなデザイナーの力に、私は常々目をみはる思いをしてきましたが、その絶大なる影響力を活かし切れていない、いや、それどころかそうした力の存在に気づいてさえいないデザイナーがどれほど多いかにも驚きの念を禁じ得ずにきました。実際、デザインには未来を変える力が、世の人々に影響を及ぼす力が、また、デザイナー自身のキャリアアップを後押しする力があるのです。デザイナーは自らの創造力を駆使して、人々にひらめき、活力、勇気を与えることができる――このことを理解した瞬間、あなたは自分の運命を自分の手でがっちりとつかみ取ることができるのです。未来を構想することで、あなたのチームは賞賛を浴び、ステークホルダーの注目を集め、有意義なものを作り出す機会を与えられるのです。
デザイナーは自らの持てる力を認識すべきです――未来を構想する力を、かつて存在したこともない斬新なものを創造する力を、全社にインスピレーションを与えるアイデアを考案する力を。こうした力は我々の「道具」となってくれます。より良い製品やサービスを生み出し、さらなる改良を加えていくための、また、自分なりにとことん満足の行く仕事をするための「道具」となり得るのです。デザインに関する議論のコツを身につけようとする際も、会議室でのプレゼンテーションや話し合いにまつわる具体的なスキルに終始することなく、「創造力を発揮できるよう、また、常にインスピレーションを失わないよう、確固たる目的意識に裏打ちされた習慣を身につけること」から始めるべきです。まだ存在すらしない物事を中心に据え、そこから感動や活気を生み出していく能力――そうした能力を駆使できる分野は、デザイン以外にはまず見当たりません。というわけで、この最終章では「ビジョンのためのデザイン」がいかに偉大な力を持ち得るかを発見する旅に出たいと思います。 ...
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