第1章
心は次にやることをどうやって決めているのか
熟慮の心理、直感の心理
人の心がどのように働いているのかについては、見解が分かれている。「人は注意深く合理的だ」という意見と、「人は運よく日々生き延びている感情的な難破船だ」という意見だ。しかも、わたしたちはしばしば、異なるはずの2つの見方を両方とも受け入れている。例えば、自分自身を合理的な人物だと思っていても、敵対する政党や別の部署の連中は感情に流されやすく見える*1。
本当のところ、両方の見解は、誰にもあてはまる。そして、行動を変えるプロダクトの設計を考えていくためには、この事実を受け入れる必要がある。
わたしたちは脳内に2つの心理のモードを持っている。1つは熟慮の心理で、もう1つは直感の心理だ。心理学者が提唱する二重過程理論(dual process theory)によって、これらの心の働きが理解できる*2。瞬間的で自動的に生じる心の働きが、直感の心理(感情の心理、あるいはシステム1)だ。しかし、内部で直感の心理が動作していることを、普段のわたしたちは気づかない。直感の心理は、過去の経験や一連の単純なルール(親指の法則、経験則、rules of thumb)を使って、ほぼ瞬時に状況を評価する。その評価は、感情や、あるいは“腹の虫(gut feeling)”のような体の感覚によって得られるものだ(Damasio et al. 1996)。過去の経験と関係しているか、似ている状況なら、直感の心理は瞬時にうまく判断できる。だが、過去の経験とさほど似ていない場合にはそれは望めない。
熟慮の心理(意識の心理、あるいはシステム2)は遅い。何かに集中していて、自覚的な心理だ。わたしたちが「考えている」と思ったら、それはたいてい、熟慮の心理のときだ。わたしたちはこのシステム2のおかげで、あまり慣れていない状況も合理的に分析でき、複雑な問題も取り扱える。 ...
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