第2章
なぜ他でもないその行動をするのか
わたしは今コンピューターを前に、オレンジジュースを飲もうとしている。あなたはどこかで本書を読んでいるが、オレンジジュースを飲もうとはしていないだろう。わたしたちの基本的な認知機構は同じはずなのに、なぜわたしだけオレンジジュースを飲もうとしていて、あなたはそうではないのだろうか。
わたしたちの行動は、環境(わたしは目の前の大きなボトルに入ったオレンジジュースの誘惑を受けていて、おそらくあなたはそうではない)、ニーズと欲望(わたしは喉が渇いている)、過去の経験(わたしはオレンジジュースが好きだ)、その他多くの要因に依存している。「あなたがA、B、Cをすれば、他の人が自分たちの意に反してでもあなたの思いどおりに行動する」というような魔法の公式があるわけではない。わたしたちはひとりひとりが独立していて、それぞれ独自の環境において、自分だけの、複雑でややこしい、謎の多い意思決定をしている。
とはいえ、なぜ他でもないその行動をするのか、という問いに対し、一風変わった論理のようなものが存在している。この論理を理解しても、今と全く別の行動をユーザーに強制できるわけではない。しかし、ユーザーがしたいと望む行動なら、この論理を活用すれば、行動しやすい状態を整えられる。行動変容デザインを実践するには、わたしたち自身の風変わりな心の働きを受け入れ、周囲の環境とのやりとりの仕方を理解し、行動を変えるプロダクトは何をすればいいのかを理解する必要がある。
第1章では、心が次にすることを決める方法について考えてきた。この章では逆側から考えてみよう。つまり、プロダクトが何をすればユーザーは行動してくれるのか、やろうと思える行動とそうでない行動とでは何が違うのか、について考えたい。日常生活で、ある行動が実際に行われるようになるには何が必要なのか、まずは抽象的なところから見ていこう。 ...
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