10章人間的なカオス
私は長らく、ある疑問に頭を悩ませています。カオスエンジニアリングに関する知識を、どうやったら人間的なシステムに適用できるのでしょうか? 初めてカオスエンジニアリングという新しい分野について学んだとき、控えめに言っても私は非常に興味を引かれました。自分のシステムに関する理解を深めるために、システムに対して故意に障害を注入するだって? 私はすぐに納得しました。「new view」†1を支持する安全性オタクであり、かつシステムに関する思索者でもある私にとって、自分たちが日常的に使っているシステムが本質的に安全でないと認めるパラダイムは受け入れやすいものでした。私が最初に抱いたのは、カオスエンジニアリングのプラクティスが分散ウェブシステムに対して実行されるように設計されているのならば、私たちが日々接する他の分散システム、つまり私たちの日常生活を形作るあらゆるシステムに対しても適用できるのではないかという仮説です。
[†1] 訳注:Sidney Dekker博士によって提唱された、安全性に対する見方の1つ。「10.2 エンジニアリングの適応能力」を参照。
カオスエンジニアリングの分野を、私たちが慣れ親しんだ複雑な分散技術システムに対してだけでなく、組織という複雑な分散システムに対しても適用できたらどうでしょうか? 組織はいわば、複数のシステムからなる巨大な1つのシステムですから、同じルールが適用できるのではないでしょうか? 本章では、3つの実世界の事例を紹介します。私が率いるプラットフォーム運用チームでカオスエンジニアリングの原則を実践に移した例、さらに大きなSportsEngineでプロダクト開発組織での例、そしてこれらの同様の手法をあなた自身の組織に適用するためのツールの例を提供できたらと考えています。 ...
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