カオスエンジニアリング ―回復力のあるシステムの実践

18章HOPとカオスエンジニアリングの出会い

Bob Edwards

18.1　HOPとは何か

HOP（Human and Organizational Performance、人間と組織のパフォーマンス）は組織構造と機能的なプロセスを改善し、安全性のようなビジネスに不可欠な特性を最適化するためのアプローチです。製造業に起源を持つことから、HOPはプロセスであると誤解されることがよくありますが、そのような規範的なものではありません。HOPには、本章でご紹介する5つの原則に基づく柔軟性や、それを活用するための創意工夫の余地が備わっています。

製造業の世界で一般的に適用されるアプローチとして、私たちにはカオスエンジニアリングから学び、ソフトウェアシステムで真価が発揮された技法を取り入れる機会があります。カオスエンジニアリングもHOPも、安全科学の分野で「new view」†1として知られる思想に端を発しています。「new view」は事故や人間的な要素に対する私たちの理解を、根底から変えました。HOPは、より安全なシステムを構築する目的のため「new view」のモデルを事故の分析や組織の変化に適用したものです。

[†1] 「new view」は安全科学における「old view」と対照をなす、厳格な定義を持たない緩やかな指針で、Sidney Dekkerによる多くの著書と共著者によって推奨されたものです。この指針は大まかに、2000年代前半からの安全科学とレジリエンスエンジニアリングにおける最新の研究やトレンドに合致するもので、学術的・一般的な文献で広く知られた「Safety-II」「Safety Differently」のような概念に沿ったものです。安全性における「new view」の初出については、Sidney ...