ゲームデザインバイブル 第2版 ―おもしろさを飛躍的に向上させる113の「レンズ」

9章ゲームはプレイヤーのために作られる

図9-1　　

9.1　アインシュタインのバイオリン

アルベルト・アインシュタインはあるとき、地方のある小さな団体から、昼食会の主賓として招待を受けました。そして、研究について講演してほしいと頼まれます。彼は快く了承しました。実に楽しい昼食会でした。そして時間になり、主催者は少し不安げに来客に発表しました。本日は、かの有名なアインシュタイン博士に特殊相対性理論と一般相対性理論について講義いただくためにお越しいただいております、と。ステージに上がったアインシュタインは、聴衆に目をやりました。そこにいるのは学者などではない一般人で、ほとんどが老婦人でした。アインシュタインはこう言いました。もちろん難しい理論について話すこともできますが、いささか退屈でしょう。それよりも本日は、わたしのバイオリン演奏はどうかと思っているのですが、いかがでしょう？ 主催者も聴衆も、それは素晴らしいアイデアだと賛成しました。アインシュタインは得意な曲を数曲演奏し、聴衆全員が楽しめる素晴らしい体験を生み出しました。これは聴衆にとって、一生忘れられないひとときになりました。

図9-2　　

アインシュタインが聴衆の記憶に残る素晴らしい体験を生み出せたのは、そのときの聴衆がどんな層かを理解していたからです。物理学について考えることもしゃべることも大好きなアインシュタインですが、目の前の聴衆が本当に興味を持っていることではないとわかっていたのです。確かに、彼らはアインシュタインに物理学の講演を依頼しました。それは、講演をお願いすることが、自分たちの希望を叶える一番よい方法だろうと考えたからです。聴衆が本当に希望していたのは、あの有名なアルベルト・アインシュタインに間近で会うことでした。 ...