17章ストーリーも体験の一種
神はその生涯で優れた脚本を書かれたことは一度もない。
——カート・ヴォネガット
17.1 ストーリーとゲームの二重性
20世紀の初頭に、物理学者たちはある奇妙なことに気づき始めました。電磁波と素粒子は、詳細まで解明された現象だと長い間考えられてきました。しかし、両者の間で予想外の相互作用が起きていることが発見されたのです。何年にもわたって理論化と実験が繰り返され、不思議な結論が導き出されました。粒子と波は同じものであり、1つの現象が異なる形態で出現しているにすぎない、と。この「粒子と波の二重性」は、物質とエネルギーに関するすべての前提に対する挑戦でした。同時に、わたしたちが世界についてあまりよく理解していなかったことも明らかになりました。
そして21世紀を迎えた今日では、ストーリーの作者たちが同じような難問に直面しています。コンピュータゲームの出現によって、ストーリーとゲームプレイという長年の間全く異なるルールで機能してきた存在にも、類似の二重性が見られるようになりました。ストーリーがどのルートに進んでいくかを、作者が把握できない新しいメディアが登場したのです。物理学者が電子の移動経路に確信を持てなくなった姿と同じです。どちらの世界でも、可能性という観点からしか話すことができません。
歴史的には、ストーリーは1つの経路に沿って進める体験で、1人でしか楽しめないものでした。一方、ゲームは無数の結果につながる体験で、複数人で楽しむものでした。1人プレイのコンピュータゲームが現れ、それまでの先入観を覆しました。初期のコンピュータゲームは、従来のゲームをコンピュータ化しただけのものでした。コンピュータが対戦相手となる三目並べやチェスなどです。1970年代中盤に、物語性のあるアドベンチャーゲームが登場し始め、プレイヤーはストーリーの主人公になっていきました。そして、ストーリーとゲームプレイを結合させるための無数の実験が始まりました。コンピュータと電子機器を使うものも、紙と鉛筆を使うものもありました。大成功を収めたものも、大失敗に終わったものもありました。数々の実験を経て、ストーリーとゲームプレイという両方の要素を持つ体験を作り出せることがわかりました。結果として、ストーリーとゲームは全く異なるルールに支配されているという前提が崩れ始めました。 ...
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