実践 bashによるサイバーセキュリティ対策 ―セキュリティ技術者のためのシェルスクリプト活用術

まえがき

What is of the greatest importance in war is extraordinary speed:

（戦において至要たるは迅速なり）

one cannot afford to neglect opportunity.

（機を失するべからず）

—— 孫子の兵法†1

[†1] 訳注：孫子の兵法の本文ではなく、その注釈書内の記述だと思われる。

今日、コマンドラインの存在はともすると忘れられた存在である。若手のサイバーセキュリティ技術者は、きらびやかなGUIを備えたツールに目を奪われがちである。ベテラン技術者であってもその価値を認めていないことや、過小に評価していることがある。しかしながら、コマンドラインはさまざまな価値を提供するものであり、ベテラン技術者のツールキットにふさわしい。例えば、指定したファイルの最後の数行を出力するだけの一見単純なtailコマンドでも、C言語で2,000行以上のコードからなっている。同様のツールをPythonなどのプログラミング言語で作ることもできるが、コマンドラインから実行するだけで使える機能をあえて作成する理由もないだろう。

加えて、コマンドラインを用いて複雑な作業をこなす技術を身につけることでOSの機能についての理解を高めることができる。優秀なサイバーセキュリティのベテラン技術者は、ツールの使い方だけではなく、どのようにツールが動作するかの原理原則を理解している。

本書では、セキュリティ技術者としてのスキル向上を図るべく、洗練されたLinuxコマンド群とbashシェルを活用する手法を紹介する。これらのスキルを学ぶことで、最低限のコマンドのパイプラインにより、複雑な機能をもつスクリプトを短期間で試作することができるようになるだろう。 ...