第2章メンタリング

エンジニアの多くは非公式な形で「人の管理」を初めて体験します。いわば「成り行き」で、誰かを指導する立場に立たされたりするのです。

2.1 チームの新人に対するメンタリングの意義

「メンター」とは一般にチームの新人(新卒で入社したばかりの正社員やインターンに採用された大学生など)に1対1で仕事上の指導や助言、精神的なサポート等を行う専任の指南役コーチのことです。新入社員の研修の一環としてメンタリング制度を設けている企業や組織も少なくありません。時に、メンタリングの対象者(メンティー)を除けばメンター自身がチームで最年少、という状況もあります。入社後わずか1、2年の若手がメンター役を果たす場合、自身のインターンシップや新人研修での経験がまだ記憶に新しいため、メンティーに共感できる部分が多いという利点があります。その一方で、シニアエンジニアがメンターを務めることもあり、この場合は職場や実務に関するガイド役だけでなく、技術面での指南役も兼ねます。健全な組織では新人研修におけるこうしたメンタリングを「メンティーとメンターの双方にとっての好機」と捉えています。メンターにとっては他者への責任を負う経験をする好機、メンティーにとっては、自分以外にあれこれ頻繁に報告や相談をしてくる部下のいない(あるいは当座はそうした部下たちから「解放」された)専任のお目付け役に教えを請う好機です。

私自身の初めてのメンターはケビンさんというシニアエンジニアで、ソフトウェアエンジニアの現場の職務を1から教えてもらいました。当時まだ学生であった私はインターンとしてサン・マイクロシステムズに受け入れてもらい、JVMツールの担当チームに配属されました。本物のソフトウェアを作るプロジェクトに参加するのは生まれて初めてでしたが、幸運なことにケビンさんはすばらしい指南役でした。「すばらしい指南役」として私の記憶に強く刻みつけられたのは、その分野の第一人者であるにもかかわらず新米の私のためにわざわざ時間を割いてくれたからです。「君のデスクはここだ」と告げたきり、何をやるべきかはすべて私ひとりで考えさせる、などという冷たい仕打ちはしませんでした。2人でホワイトボードを前にしてコードを逐一検討するなど、プロジェクトの詳細を丁寧に説明してくれた上に、質問にもきちんと答えてくれました。おかげで私は自分が何を求められているのかを把握できましたし、行き詰まった時にも気後れせずに質問したり助けを求めたりできました。私にとってその夏の体験は、ソフトウェアエンジニアとして成長を遂げる上で貴重な第一歩となりました。というのも、ケビンさんの心のこもった指導のおかげで、自分にも現場の仕事がやれるのだ、社員のひとりとして成果を上げることができるのだ、と思えるようになっていったからです。あの体験は私のキャリアにおける忘れがたい一里塚なのです。また、あの経験を通してメンタリングの意義も教えてもらうことができました。 ...

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