第9章文化の構築
技術系の経営幹部になると担う職責のひとつが「担当部署の文化の構築」、つまり「チームに文化を明示し、以後も常に配慮を怠らない」という仕事ですが、新任のCTOはこの仕事の重要性を過小評価するという誤りを犯しがちです。しかし、新たなチームを育て上げるにしても既存のチームを改革するにしても、チームの文化を軽んじれば統率者としてのあなたの仕事はまず間違いなく難航します。文化は、拠り所となる重要なインフラの場合と同様に、チームが成長、発展していく過程で配慮を欠いてはならない要素なのです。
私はパーティードレスのレンタルサイト「レント・ザ・ランウェイ」に移籍後、技術チームの文化の基本要素を策定する機会を与えられました。当時チームはまさに「スクラッピー・スタートアップ(資金やリソースが乏しい中、新規事業を軌道に乗せようとひたすら強気で押していくスタートアップ)」の典型例とも言える状態で、組織構造はほぼ皆無でした。したがってチームのためにも個々のメンバーのためにも「文化」にまつわるさまざまな「構造」や慣行を導入することができ、私にとってはこの上ない学びの体験となりました。
「構造」や「工程」といった概念は、スタートアップの企業文化を信奉する人々の目には、ひいき目に見ても「無意味」、最悪の場合「有害」と映ることが多いようです。スタートアップのチームを対象にしたアンケート調査の結果を見ても、「構造」は作業の遅れの要因やイノベーションの障害と見なす回答が目につきます。回答者に言わせれば「構造」は、事がなかなか運ばなくなる、形式的で煩雑な手続きが増える、頭脳明晰な人材にとってはしごく退屈な職場を生むなど、「大企業病」の元凶なのです。
私はこうした「構造」を疑問視する人を相手に議論する時には多少攻め手を変えるようにしています。「構造」そのものではなく「学習」を、「プロセス」そのものではなく「 ...
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