5章ウォレット
「ウォレット」という用語は多義であり、イーサリアムが持つ複数の機能や事柄に対して使われます。
広義には、基本ユーザーインターフェイスとして機能するアプリケーションを表します。ウォレットは、ユーザーの資産へのアクセス、鍵とアドレスの管理、残高の追跡、トランザクションの作成と署名といった機能を制御します。さらに一部のイーサリアムウォレットは、ERC20トークンといったコントラクトとやり取りできます。
プログラマーの観点から、より狭い意味で言えば、「ウォレット」という用語は、ユーザーの鍵を保管・管理するためのシステムを指します。ウォレットは鍵を管理する機能を備えていますが、中には鍵を管理する機能しかないウォレットも存在します。他にも、より幅広いカテゴリーの一部に属するウォレットも存在します。たとえばイーサリアムを用いた非中央集権型アプリケーションへのインターフェイスであるブラウザやDAppなどです。これらに関しては12章で詳しく解説します。「ウォレット」という用語でまとめられているカテゴリーの間には、明確な線引きはありません。
この章では、秘密鍵を保存するコンテナ、および鍵を管理するためのシステムとして、ウォレットを解説します。
5.1 ウォレット技術の概要
この節では、利便性、安全性、柔軟性を兼ね備えたイーサリアムウォレットを実現するために使われている、さまざまな技術の概要を説明します。
ウォレット設計における重要な検討事項は、利便性とプライバシーのバランスをとることです。一番使いやすいイーサリアムウォレットとは、すべてのトランザクションに対して、ある1つの秘密鍵とアドレスを再利用するようなウォレットでしょう。残念ながら、そのような設計のウォレットはプライバシーの観点からは望ましくありません。なぜなら誰もがあなたのトランザクションを簡単に追跡し、関連付けることができるからです。すべてのトランザクションに対して新しい鍵を使うことが、プライバシーの観点からは最も望ましいのですが、管理は非常に難しくなります。利便性とプライバシーのバランスをうまくとることは困難な課題ですが、逆に言えば、だからこそ優れたウォレット設計が重要になってきます。 ...
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