1章ニューラルネットワーク
1.1 知的な機械を作るということ
人間の体の中で、最もすばらしい能力を備えているのが脳という器官です。脳は視覚や聴覚、嗅覚、味覚そして触覚のすべてを司っています。物事を記憶したり、感情を引き起こしたり、夢を見るのさえも脳の働きです。脳がなかったら、我々はごく単純な反射運動しかできない原始生物と変わりありません。脳が我々を知的生命体たらしめているのです。
幼児の脳の重さは500グラム足らずですが、最も大きく最も強力なスーパーコンピューターにも解けないような難問を解決できてしまいます。生後わずか数ヶ月で幼児は両親の顔を認識でき、物体と背景を区別でき、声を聞き分けることも可能です。そして1年もすると、自然界の物理を直感的に理解でき、対象が一部またはすべて物陰に隠れていても動きを追跡できて、音声とその意味を関連付けられるようになります。幼少期の早い段階で、数千のボキャブラリーやきちんとした文法を身につけられます†1。
[†1] Kuhn, Deanna, et al. Handbook of Child Psychology. Vol. 2, Cognition, Perception, and Language. Wiley, 1998.
過去数十年にわたって我々は、人間と同じような脳を持った知的な機械を作ることを夢見てきました。家を清掃する家政婦ロボット、自律的に運転する自動車、病気を発見してくれる顕微鏡などがその一例です。しかし、このような知能を人工的に実現するには、我々が今までに取り組んできた中でもきわめて難しい部類に属する問題をコンピューター上で解かなければなりません。我々の脳はこのような問題をマイクロ秒単位で解けてしまうのですが、コンピューターにとっては難問です。こういった問題を解くためには、まったく新しいプログラミングの手法が必要になると考えられます。過去10年ほどの間にとても活発に行われてきた人工知能関連の研究を通じて、ここで使われることになるテクニックが生み出されました。それは ...
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