6章腰痛への対策
17世紀にチェンバロが広く使われるようになった頃、その正しい演奏方法に自信がある音楽家はほとんどいませんでした。椅子に座る場所や、椅子の高さ、そして身体を鍵盤からどの程度の距離に置けばいいのか、はっきりしていなかったのです。さらに悪いことには、熟達した鍵盤奏者になるためにはひどい痛みに耐えなければならないことを、ほとんどの音楽家が当然だと考えていたのです。
この認識は、1753年にCarl Philipp Emanuel Bach(バッハの息子)による『正しいクラヴィーア奏法』[Bac49]の出版によって、変わり始めました。彼は演奏法の様々な側面に言及しましたが、その中には多くの奏者を混乱させていたポジショニングと運指法の問題も含まれていたのです。これは極めて根本的なことだったので、モーツァルトはCarl Philipp Emanuel Bachを「父であり、我々は彼の息子である」と言いました。
Bachの時代からは、プロのピアニストになるためには、苦痛に満ちた生活を送らなければならないということは、多くの音楽家や教師たちが否定するようになり、ピアノの奏者のポジショニングについての理解は、大きく進歩しました。今日では、アメリカのジュリアード音楽院や、ロンドンの王立音楽大学といった学校においても、姿勢はピアノの教育学にとって欠かせない要素の1つとなっています†1。
プロのピアニストは、毎日鍵盤の前で練習することによって、職業を成り立たせています。ということは、プログラマとピアニストには(頭のどの部分を使っているかということ以外で)、共通することが多いのです。
通常、プロフェッショナルのプログラマは、椅子に座り、キーボードの前で週に40時間以上を過ごします。その際に、仕事中に自分の身体の位置をどうするのが良いか、教えてもらった人はほとんどいないでしょう。従って、貧弱なエルゴノミクスの結果として、多くのプログラマが慢性の腰痛を抱えるようになることは、不思議でも何でもありません。これは、17世紀のチェンバロ奏者たちの場合と同じような状況です。実際のところ、腰痛はあまりに一般的であり、医者を訪れる理由としてはアメリカでは頭痛に次いで第2位になりました ...
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