19章ステージ5:拡大

定着のある製品を手に入れた。マーケティング効果を高めてくれる拡散も手に入れた。ユーザーや顧客を獲得するための原動力となる収益も入ってきた。

スタートアップの最終ステージは拡大である。顧客の幅を広げるだけでなく、予測可能性や持続可能性の低い新しい市場に参入し、新しいパートナーと付き合うことも含まれる。もっと大きなエコシステムで、知名度の高い活発な参加者となるわけだ。収益ステージはビジネスの証明だった。拡大ステージは市場の証明である。

19.1 中途半端の落とし穴

ハーバード大学教授のマイケル・ポーター《Michael Porter》は、企業の競争における3つの基本戦略について解説している†1。ニッチな市場にフォーカスするか(集中戦略)、効率性にフォーカスするか(コスト戦略)、独自性を見いだすか(差別化戦略)だ。たとえば、グルテンを使わない地元のコーヒーショップは、ニッチな顧客にフォーカスしている。コストコは、効率性と低コストにフォーカスしている。Appleは、ブランドデザインと独自性にフォーカスしている†2。需要と供給でフォーカスが異なる企業もある。たとえばAmazonでは、供給側のバックエンドのインフラは徹底的に効率化しており、需要側ではブランドの差別化をはかっている。

市場シェアの高い企業(Apple・Costco・Amazon)は利益性も高いが、それは市場シェアの低い企業(地元のコーヒーショップ)でも同じであるとポーターは述べている。ここで問題となるのは、市場シェアが低くもなく、高くもない企業だ。彼はこのことを「中途半端の落とし穴(hole in the middle)†3」問題と名付けている。ニッチ戦略を採用するには規模が大きすぎ、コストやスケールで競争するには規模が小さすぎる企業が直面している問題だ。中規模の企業が生き残るには、まずは差別化する必要がある。そのあとでスケールしたり、効率化したりすればいい。 ...

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