1章イントロダクション

善人が、よこしまに設計された制度の中で不用意に、ときには自覚のないまま、見ず知らずの人に多大な損害を与える行為をすることもある。

ベン・ゴールドエイカー(『悪の製薬』青土社)

2010年4月1日、カリフォルニア唯一の自動車工場だったNUMMI(New United Motor Manufacturing, Inc.)が操業を停止しました。NUMMIは、1984年に設立されたGMとトヨタのジョイントベンチャーです。このパートナーシップは、両社にとってメリットがありました。その当時、トヨタは米国に工場を設立する必要がありました。米国自動車メーカーの市場シェアの著しい低下を受けて、米国連邦議会が迫ってきた輸入規制を回避するためです。GMにとっては、利益を生む小型車の製造方法を習得し、トヨタ生産方式(TPS: Toyota Production System)を学ぶチャンスでした。トヨタ生産方式とは、日本の自動車メーカーが米国メーカーよりも低コストかつ継続的に業界最高品質の車を届けることを可能にした生産方式です†1

[†1] NUMMI工場の話は『This American Life(episode 403)』(http://www.thisamericanlife.org/radio-archives/episode/403/)に詳しく書かれてあり、本書はここから引用しました。

このジョイントベンチャーのために、GMは閉鎖したフリーモントの組立工場を選びました。GMのフリーモント工場は、製造された自動車の品質から見ても、マネージャーと労働者の関係から見ても、最悪の部類にある工場でした。1982年に工場が閉鎖される頃には、労使関係はほぼ崩壊しており、労働者は仕事中に酒を飲んで賭け事をするようなありさまでした。自動車労働組合の交渉担当ブルース・リーは、フリーモント工場の労働組合幹部を再雇用して、NUMMIの労働者を指揮させるように要求しました。驚いたことに、トヨタはこの要求を受け入れました。労働者たちはTPSを習得するために、日本の豊田市に派遣されました。それから3か月のうちに、NUMMI工場は、ほぼ完璧な品質、すなわち米国最高レベル(日本からの輸入車に匹敵する品質)の車を製造できるようになりました。しかも、これまでのフリーモント工場よりもはるかに低コストでした。リーは正しかったわけです。彼が言うとおり、「悪いのはシステムであり、人ではなかった」のです。 ...

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