2章偉大なデザイナーは偉大なコミュニケーター
言葉――辞書の中にあるかぎりは、あくまで無垢、無力。しかしその組み合わせを心得た者の手にかかるや、善かれ悪しかれ畏るべき威力を帯びる。ナサニエル・ホーソーン
今や、デジタル業界の先頭に立ち、周囲を誘導し、引っ張っていくのはデザイナーです。これこそ近年我々が直面するようになった新たな現実です。そんな構図の中での舵取りは容易なことではありません。独創的な思考を旨とする我々デザイナーが、ビジネス界の面々との協業の真っ只中で、デザインのプロとして期待され、どうすべきか教えてほしいと迫られるのですから。迫られた側はまさに陸にあがった魚、口をパクパクさせて何とか説明しようと四苦八苦です。そんな現実にもめげず巧みに心のギアチェンジをし、新たな役割をしっかりこなしていくためには、デザインにとって的確なコミュニケーションがいかに大切かを理解することが不可欠なのです。
2.1 船頭多くして船山に登る
さて、この「新たな現実」におけるデザインの作業は、デザイナーの決定に対してプロジェクトのメンバーから異論さえ出なければ順調に運ぶのですが、あいにく出るのです、異論が!
デザインの知識などほとんどなし、あるいは皆無、にもかかわらずプロジェクトのデザイン現場で監督や決定の権限を握っている――今ではそういう人が山ほどいます。当然そういう人たちは議論に加わる権利を持っていますが、我々のようにデザイナーとしての経験を積んできたわけでも、デザインやITに関する専門知識を持っているわけでもありません。かつては「グラフィックアーティストの間で交わされていた専門家同士の(したがって門外漢にはちんぷんかんぷんの)議論」に、ビジネス界からチームに加わったメンバーまでもが参加する資格をもつようになったのです。 ...
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