デザインの伝え方 ―組織の合意を得るコミュニケーション術

3章人間関係を構築する

私はあの男が好きではない。あの男のことをもっとよく知る必要がある。エイブラハム・リンカーン

ステークホルダー（プロジェクト関係者）との会議（S会議）における議論のスキルの詳細に入る前に、まず「人間関係」について考えたいと思います。あなたとステークホルダーの意思疎通をスムーズに行う上で何よりも重要なのは、「関係」をよくすることです。相手の信頼を勝ち取り、打ち合わせであなたが口にする言葉以上のものが伝わるような間柄を築き上げることです。

結局のところ、家庭生活も仕事もすべて人と人との「関係」ではありませんか。単に「誰々を知っている」といった程度にとどまらず、その関係の「質」が問われるのです。スムーズな意思の疎通には良好な人間関係が欠かせません。そのためには、プロジェクトに影響力をもつ人の目を通して世界を見なければなりません。ステークホルダーの頭の中に入り込み、何がその人を駆り立てるのかを突き止め、そうして得た情報を生かして誰にとっても有益で建設的な方法でステークホルダーにアプローチしなければなりません。

我々デザイナーも含めて、UXの設計に関わる者の多くはユーザーのことを第一に考え、ユーザーの立場になってインタフェースを見るのが得意です。ところが皮肉なことに、プロジェクトの成否のカギを握るステークホルダーに対しては無頓着とも言える態度をとることが多いのです。ユーザーに対する場合と同じ原理原則をS会議の参加者にも適用し、相手を理解するための時間を取り、共によい製品を作り上げようではありませんか。個々のレベルで交流し、コミュニケーションの質を上げるよう心がけましょう。人間関係に関しても「すぐれたインタラクションデザイナー」になりましょう。ステークホルダーとのインタラクションにも、ユーザーに対するのと同じように十分な心配りが必要なのです。 ...