6章正しい心構えを持つ

まず自分の言おうとすることの意味を自覚し、それから話せ。エピクテトス

魂を込めてデザインしました。十分な時間をかけてステークホルダーの視点も検討しました。そして、あなたのデザインがなぜ効果的でないのかを語るステークホルダーの話を集中して聴きました。「さあ、いよいよ自分の番だ。ユーザビリティについて、デザインについて熱弁をふるう時が来た」と思いたくなるのも無理からぬところです。しかしまだ早いのです。取り返しのつかない事態にならないよう、しっかりとした心の準備が必要です。説得力のある話をし望みどおりの結果を得るために、身につけるべき態度、姿勢があるのです。たとえば主導権が自分にないことを認識する、エゴを捨てる、常に「Yes」から始める、といったコツがあります。さらに、自身を魅力的に見せる方法を学び、これまでの努力を台無しにしてしまうような応対を避ける術を身につける必要もあります。このように心構えがきちんとできていれば、この章の最後で紹介する「感謝→繰り返し→準備」のパターンに従って、首尾よく応対することができます。

6.1 主導権が自分にないことを認識する

アルコール依存症などを克服するために使われる「12ステッププログラム(twelve-step programs)」というものがあります†1。この第1ステップが我々とデザインとの関係にピッタリ当てはまります。依存症からの脱出の第1ステップは「自分が主導権を握っていないことを認める」です。自分たちがどう考えようと、デザインに関する最終的な決定権はないのです。決定過程において相当な貢献をすることに間違いはありませんが、ステークホルダーとの会議(S会議)の終わりに最終決定をするのは誰かほかの人なのです。チーム全員が我々のデザインに反対する可能性さえあります。デザイナーにとっては「好きなようにデザインできる」のが理想ですが、我々の権限は上に立つ人々によって制限されています。プロジェクトには対等なチームメンバーだけでなく、役員など上のレベルの人々も参加しているのが普通です。この事実に気がつけば、自分の言葉でほかのメンバーに影響を与えることの重要性が実感できるでしょう。自分の主張を押し通すことはできないのです。ほかの方法を見つけるしか手はありません。 ...

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