付録A最小限のドキュメントで理解を最大限に深める

ヒーウォン・チョイ

ソフトウェア業界で何年も働いていると、様々なデザイナーと仕事をする機会があります。中でも印象的だったのは、周囲が認める優秀なデザイナーがイノベーションを起こすかもしれない優れたアイデアを思いついたとしても、最終的には当初のアイデアとはかけ離れた製品やサービスが出来上がってしまうことでした。

A.1 完璧なソリューションを思いついた、だが……

私がよく知っているデザイナーの話をしましょう。彼の名はジャックと言います。ジャックはとある小さな旅行代理店のウェブサイトを担当していました。事業責任者やエンドユーザーをも巻き込み、彼は彼が正しいと思うやり方でプロジェクトを進めてきました。彼は事業責任者やエンドユーザーが何を求めているのかを調査を通じて理解し、彼らが抱える問題を解決するための手段の考案に、多くの時間を割いていました。彼はウェブサイトを利用しているユーザーがストレスなく、ゴールまで到達できるようなシンプルかつ美しいインタフェースを考えていました。ところが数ヶ月後、当初考えていた案とは程遠いウェブサイトが出来上がったのです。一体なにが起こったのでしょうか? 原因はステークホルダーにありました。もちろん、ジャックのビジョンよりも CEOのビジョンが優先されるべきです。また、プロジェクトに関わっていたステークホルダーの一人一人がこれからつくるウェブサイトに対して異なる意見を持っていました。時間が経つにつれ機能が次々と追加され、ジャックのアイデアは無に等しい状態となりました。いくらジャックが周囲に対して正しい道を示唆したとしても、周囲は彼の意見に耳を傾けませんでした。ジャックは優れたデザイナーであったことは確かですが、優れたコミュニケーターではなかったのです。ここまでのジャックの話を読んで心当たりはありませんか? 恐らく、この文章を読んでいる多くのデザイナーにとってはとても共感できるストーリーだったのではないでしょうか? 少なくとも私はとても共感しました。 ...

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