第7章ドキュメントと組織的な理解

本番対応のマイクロサービスは、ドキュメントされ、組織全体で理解する必要があります。ドキュメントと組織的な理解は、開発者のベロシティを上げ、マイクロサービスアーキテクチャを採用したときにトレードオフとしてついてくる組織的なスプロール(不規則な成長)と技術的負債の2つの問題を緩和します。この章では、包括的で役に立つドキュメントの作り方、マイクロサービスエコシステムのあらゆるレベルでマイクロサービスの理解を深めていく方法、技術組織全体に本番対応を根付かせる方法など、マイクロサービスのドキュメントと組織的な理解の重要な構成要素について考えていきます。

7.1 マイクロサービスのドキュメントと理解に関する原則

マイクロサービスの標準化についてのこの最後の章は、ロシア文学の有名な作品で口火を切ることにします。ソフトウェアアーキテクチャの本でドストエフスキーを引用するのは型破りに思われるかもしれませんが、『カラマーゾフの兄弟』のグルーシェニカは、私がマイクロサービスのドキュメントと組織的な理解のポイントだと思っていることをぴたりと言い当てているのです。「ラキートカ†1、これだけは覚えておいて。私は悪い女だけど葱を1本あげたのよ」

[†1] 訳注:ラキーチンの愛称

ドストエフスキーの傑作小説の中でも私が気に入っている場面は、グルーシェニカという登場人物がある老女と1本の葱の話をするところです。その話はこのように始まります。「昔々、あるところにとてもわがままで冷たいおばあさんがいました。ある日、おばあさんは乞食とばったり出会い、どうしたものか、とてもかわいそうに思いました。おばあさんは乞食に何かをあげたいと思いましたが、持っていたのは葱だけでした。そこでその葱を乞食にあげたのです。おばあさんはそれから死んでしまい、心が冷たかったおかげで地獄に行ってしまいました。おばあさんが地獄で苦しんでいると、天使がおばあさんを助けに来ました。神様がおばあさんの人生でたった1度だけの優しい行いを覚えていて、その分同じくらいの優しさを与えてやろうと思ったのです。天使は1本の葱を手にしておばあさんの前に現れました。おばあさんは葱にしがみつきましたが、まわりの罪人たちもその葱にしがみついてきたのでまずいと思いました。もともとのわがままで冷たい心がよみがえり、誰にも葱を分けてやりたくなかったので、罪人たちを振り落とそうとしました。おばあさんが罪人たちから葱を引ったくろうとしたため、葱はばらばらにちぎれ、おばあさんと罪人たちはみなもろともにまた地獄に落ちてしまいました」 ...

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