6章時系列に使える統計モデル

本章では、時系列用の線形統計モデルに注目します。これらのモデルは線形回帰に関係がありますが、横断面データに適用される標準手法が同じ標本内のそれぞれのデータポイントが独立であることを仮定するのに対し、同じ時系列中のデータポイント間に相関があることが考慮されています。

本章では以下のモデルを解説します。

  • 自己回帰(autoregressive:AR)モデル、移動平均(moving average:MA)モデル、自己回帰和分移動平均(autoregressive integrated moving average:ARIMA)モデル
  • ベクトル自己回帰(vector autoregression:VAR)モデル
  • 階層モデル

上記のモデルは長年、時系列予測に大きく貢献してきました。そして現在でも、学術研究から産業モデリングに至るまでの幅広い状況に適用され続けています。

6.1 線形回帰を使わない理由

データアナリストの読者は、おそらく既に線形回帰に詳しいでしょう。よく知らない人のために手短に説明すると、線形回帰は次のように定義されます。線形回帰は、データが独立同分布(independently and identically distributed:iid)であることを仮定します。前方の章で時間をかけて論じたように、この仮定は時系列データには当てはまりません。時系列データでは、時間的に近い点同士に強い相関がある傾向があります。実際のところ、時間相関がなければ、時系列データは伝統的な時系列の課題、例えば将来予測や時間的ダイナミクスの理解にほとんど役に立たないでしょう。

時系列のチュートリアルや教科書の中には、線形回帰は時系列の役に立たないという印象を過度に与えるものがあります。学習者に、単純な線形回帰ではダメなんだ、と思わせてしまうのです。幸い、これはまったく違います。最小二乗線形回帰は、以下の条件を満たせば、時系列にも適用できます。 ...

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