13章カオスエンジニアリングの費用対効果
「誰も、発生しなかったインシデントについて語ることはない」
John Allspaw
カオスエンジニアリングは、ビジネスに価値をもたらす実用主義に基づいた規律です。カオスエンジニアリングの演習をうまく行う上で最も難しい側面の1つは、成果がビジネス的な価値を持つのを証明することです。本章では、ビジネス的な価値へのつながりを確立する上で困難な点を挙げ、方法論的に費用対効果(ROI)を追求するモデルである、Kirkpatrickモデルについて説明します。さらには、NetflixでChAP(Chaos Automation Platform、カオス自動化プラットフォーム)に関する経験から得られた、費用対効果を確立する客観的な事例について述べていきます。
13.1 長続きしないインシデント削減の性質
あなたのサービスのアップタイムをなんらかの一貫性のある方法で計測し、99%だったと想定してください。そしてカオスエンジニアリングの実践を取り入れた後、システムのアップタイムは99.9%になりました。これが同時期に行われた変更の結果ではなく、カオスエンジニアリングの実践のおかげだったと証明するにはどうしたらよいでしょうか? このような因果関係の証明は難しい問題です。
他にも障壁は存在します。カオスエンジニアリングそのものがもたらす改善の性質自体に自己抑制がかかる点です。それは、もたらされる明白な恩恵の大半が一時的なものだからです。カオスエンジニアリングによる改善は、システムの安全性に対して長続きする効果をもたらすよりも、その他のビジネス的な圧力を新たに招く傾向があります。仮にカオスエンジニアリングが可用性を向上させれば、ビジネスが機能リリースを高速化する方向へ進む可能性が大いにあるでしょう。すると、チームが複雑な状況に対応する難易度の基準が高くなり、結果として可用性を維持するのがさらに困難になってしまうことがあるのです。 ...
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