2章複雑なシステムの舵を取る

前章では複雑なシステムを、あたかも溺れている人の視点から見た水のように描写してきました。この章ではどうやったら溺れずに、サーフィンのごとく波に乗れるようになるかに照準を合わせましょう。複雑なシステムの舵取りの仕方を学ぶには、2つの方法があります。

  • 動的安全モデル
  • 複雑性モデルの経済的支柱

どちらのモデルも、ソフトウェアエンジニアリングにおける規律としてのカオスエンジニアリングの構造の基礎を成すものです。

2.1 動的安全モデル

このモデルは、レジリエンスエンジニアリングの分野でよく知られ評価されている、Jens RasmussenのDynamic Safety Model†1の応用版です。これは、ソフトウェアエンジニアに関連するコンテキストの中でモデルを再編成したものです。

[†1] Jens Rasmussen, “Risk Management in a Dynamic Society,” Jens Rasmussen, “Risk Management in a Dynamic Society,” Safety Science 27(2-3), 1997.

動的安全モデルは3つの特性を持っています。経済性(Economics)、ワークロード(Workload)、そして安全性(Safety)です(図2-1)。これらの特性にゴムバンドでくくりつけられ、その真ん中にいるエンジニアを想像してみましょう。勤務中は、エンジニアはゴムバンドの中を動き回ることができますが、エンジニアが特性から遠ざかりすぎるとゴムバンドは切れてゲームオーバーになってしまいます。

図2-1 動的安全モデル

このモデルで興味深いのは、どのゴムバンドも切れないように、エンジニアたちがそれとなく自身の仕事を最適化する点です。これら3つの特性について、順に見ていきましょう。 ...

Get カオスエンジニアリング ―回復力のあるシステムの実践 now with the O’Reilly learning platform.

O’Reilly members experience books, live events, courses curated by job role, and more from O’Reilly and nearly 200 top publishers.