8章組織の風土を変えていく
サイトの優れたパフォーマンスを作り出し、維持するために最大の障害となるのは、組織の風土です。チームの規模や形態にかかわらず、共に作業するメンバーへ必要な知識を授け、意欲を高めてもらい、意思決定力を持ってもらうことは簡単ではありません。パフォーマンスの問題は、単なる技術的な問題以上に、組織の風土にかかわる場合が多いのです。
組織内の全スタッフが、パフォーマンスのユーザエクスペリエンスに及ぼす影響を重んじる――、そのような考え方が浸透した組織など、普通は存在しません。たいていの組織では、サイト速度の向上に責任を負う立場の「パフォーマンス警官」や「パフォーマンス管理人」を設けています。あるいは、パフォーマンス向上をめざす専任のインフラチーム人員を擁する組織もあります。たしかに、組織内にパフォーマンス対策のエキスパート集団は絶対に必要です(実際、読者の皆さんもおそらくその1人でしょう)。しかし、パフォーマンス対策の責任を少人数のチームに委ねてしまうと、サイト速度を良好な状態に維持することができなくなってしまいます。特に年数が経ち、サイトが変更され、作業担当者が代わっていく中で、コントロールを続けることは不可能に近いでしょう。
ある問題に対し、技術的な解決策が必要か、人的な解決策が必要か、あるいはその両方が必要かを見きわめることは重要です。本書の多くの章では、パフォーマンスを向上させるさまざまな技術的な解決策について扱ってきましたが、これから本章で取り上げるのは人的な解決策です。人的な手段を活用して、技術的な解決策の効果を高め、さらに確実に継続させていくためのさまざまな手法をご紹介します。
8.1 「パフォーマンス警察」と「パフォーマンス管理人」
パフォーマンス改善への取り組みは、たいていの場合、社内の1人の意見がきっかけで始まります。他社サイトをいろいろと見ていたある社員は、ユーザの体感速度や総ページロード時間が改良されたことによってサイトの最適化が進み、ユーザエクスペリエンスが改善していることに気づき始めます。そこでその社員は、WebPagetestを使って他社サイトの状況を測定し、自社サイトのパフォーマンスと比較してみます。他社サイトのパフォーマンスは多くの面で勝っていますが、自社サイトだって少し改良すれば、すぐに優位に立てることがだんだん分かってきました。その社員は改善に向けた取り組みを始め、ほんの少しの手間と時間で多大な効果を生みだしました。 ...