付録AEvolution Gym入門
本書ではEvolution Gymというプラットフォームを使い、アルゴリズムの実験を行います。そこでEvolution Gymとは何か、どんなことができるのかなどアルゴリズムの詳細について説明します。
A.1 Evolution Gymと仮想世界のロボット
物理法則に従った仮想世界の中で歩いたり、跳ねたり、登ったりするロボットの構造や動きを人工的に進化させる研究が長年にわたって行われています。1994年に発表されたカール・シムズ(Karl Sims)による仮想生物の研究「Virtual Creatures」がその先駆けです。その後もさまざまな仮想生物の研究が行われました。しかし、その多くは研究者が独自に開発した環境で実験が行われることが多く、アルゴリズムの性能を比較することは困難でした。
この状況を変えるべく、2021年に誰でも手軽にロボットを設計して動かせるプラットフォームが誕生しました。アメリカのマサチューセッツ工科大学の研究チームが開発したEvolution Gymです。Evolution Gymの登場によって、さまざまなアルゴリズムを同じ環境で比較することが可能となったのです。本書ではその仮想生物をロボットと呼ぶことにし、Evolution Gym上で動きや構造を進化させていきます。
Evolution Gymではロボット構造の設計、タスクの設定、動きの学習、さらには動きとロボットの構造も共進化させることができるプラットフォームです。システム概要を図A-1に示します。Evolution Gymは、ロボットのシミュレータ(AとB)と、タスクを設定した環境(C)から構成されています。ロボットの構造とその動きを学習するエンジンは、ユーザがカスタマイズしたアルゴリズムを組み込むことができます。本書のサンプルプログラムもこの仕組みを使って、新たに実装したアルゴリズムを組み込んでいます。 ...