4章品質多様性アルゴリズム
生物の進化を見てみると、「優れていること」だけでなく、「異なっていること」が重要になります。たとえば、同じ場所に生息していても、その形態や性質が異なる生物は、新しいニッチを確立することで競争を避け、生き残るチャンスを増やします。
3章で紹介した新規性探索アルゴリズムは、自然進化の多様性をアルゴリズムとして実装したものです。ただ、新規性探索アルゴリズムは「多様性」の可能性を完全には生かしきれていません。グローバルな最適解を求めるための「手段」としてのみ扱われています。
そこで、本章では自然進化が最適解だけでなく、さまざまな種を生み出すために多様性を活用してきたように、多様な解を見つける品質多様性アルゴリズム(Quality Diversity)を紹介します。このアルゴリズムは、最適化よりも「多様化」のための進化を追求します。
4.1 生態学的ニッチと品質多様性アルゴリズム
「多様化」に焦点を当てた品質多様性アルゴリズムは、自然界での「ニッチ(生態学的ニッチ)」の概念からインスピレーションを得ています。生態学的ニッチとは、種が生存するために必要な環境や役割を指し、多様な生物が共存することを可能にしています。この考えを品質多様性アルゴリズムに取り入れることで、AIシステムや問題解決にも多様性をもたらすことが期待できます。
自然界のニッチの例として、ヤマメとイワナのような同じ河川に生息する川魚があります。ヤマメとイワナは、環境の好みにわずかな違いを利用して、場所を少しずらすことで共存を可能にしています。どちらも水温が低く、きれいで、流れの速い場所を好みます。そのため片方の種しかいない場合は、その種が上流域全域を占有します。ですが、どちらも生息する場合はイワナが最上流域を、そしてそのすぐ下流をヤマメが生息するようになります。イワナの方がやや冷水を好むためです。このような、微妙な「棲み分け」が行われるのは、お互いの競争を避けるニッチを持っているから、またはそう進化してきたからです ...