リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり
by Jez Humble, Joanne Molesky, Barry O'Reilly, 角 征典, 笹井 崇司, Eric Ries
9章製品開発に実験的手法を使う
品質の定義で難しいのは、ユーザーの将来のニーズを計測可能な特性に翻訳することだ。それによって、製品を設計することができ、その製品によって、ユーザーの支払う値段に見合った満足感を与えることができる。
ウォルター・シューハート
第Ⅲ部では、顧客に価値を届ける速度を改善する方法を紹介してきました。本章では、連携の説明に移ります。つまり、顧客・ユーザー・組織にとって正しいものを作っていることを確かめるために、これまで養ってきた能力をどのように使えばいいのか、ということです。
7章では、仕事の優先順位を付けるために「遅延コスト」の使い方を紹介しました。IT部門がサービスプロバイダーの組織であれば、価値の低いタスクに貴重な時間やリソースを消費することを回避する効果的な方法になります。ところが、ハイパフォーマンス組織では、IT部門にプロジェクトと要求が壁越しに投げ込まれることはありません。むしろ、エンジニア・デザイナー・テスター・運用担当者・プロダクトマネージャーたちが、顧客・ユーザー・組織全体にとって価値の高い成果を作り出すために、みんなで連携して取り組むのです。また、現場では組織の戦略的目標を考慮して、決定を下しています。
6章では、「改善のカタ」について説明しました。これは次のイテレーションのターゲット状態を設定し、それを達成するためにチームがやるべき作業を決めるという、反復型のプロセス改善手法です。本章で紹介する重要なイノベーションは、製品開発の管理にこれと同じプロセスを使うことです。バックログに入れる要求やユースケースを作るのではなく、次のイテレーションで達成したいビジネス成果を、計測可能な言葉で記述するのです。ビジネス成果を達成する機能のアイデアを見つけ出し、テストし、期待する成果を実現するものを作るのは、すべてチームです。組織全体のスキルと創造力を活用することで、最小限のムダと最大限の速度でビジネス目標を達成するアイデアを考え出します。 ...