リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり
by Jez Humble, Joanne Molesky, Barry O'Reilly, 角 征典, 笹井 崇司, Eric Ries
第Ⅲ部活用
予測は難しい。未来の予測は特に難しい。
ニールス・ボーア
第Ⅱ部では、新しい機会(可能性のある製品でも社内ツールやサービスでも構いません)を「探索」する方法を紹介しました。第Ⅲ部では、検証されたアイデアを「活用」する方法を説明します。2章で説明したように、「探索」と「活用」では、管理と実行の手法がまったく異なります。しかし、企業ポートフォリオのバランスをとり、ビジネス環境の変化に順応するには、この両方が必要です。そして、両者は補完し合うものなのです。
第Ⅲ部を読もうとしているならば、「探索」をうまく抜け出せたのかもしれません。あるいは、従来型の企業の戦略プログラムに参加しているだけかもしれません。第Ⅲ部では、そうした大規模な戦略プログラムのリードや管理を変える方法を説明します。これは、従業員に権限を持たせ、価値のある高品質な製品を顧客に届ける確率を劇的に高めるというものです。ですが、その前に、現在の状況を理解する必要があります。
企業では、中央あるいは部門の計画・予算編成プロセスのなかで、仕事の優先順位が決まります。承認されたプロジェクトは、開発プロセスを経て、実運用あるいは製造へと移ります。「アジャイル」開発手法を取り入れている組織であっても、プロジェクトのバリューストリームはたいてい図Ⅲ-1のようになります。私たちはこれを「ウォータースクラムフォール」と呼んでいます†1。なお、どこかのフェーズをアウトソースした場合、承認から設計・開発フェーズへ進む前に、調達プロセスも経由する必要があります。このプロセスは負担が大きく、私たちはなるべく仕事をまとめようとしてしまいます。それによって、プロジェクトの問題はさらに悪化するのです。
[†1] 「ウォータースクラムフォール」という言葉は、Forrester ...