1章ALifeとは
生命を人工的に再現する、という考え方はどのようにして生まれたのでしょうか?
この章では、人工生命を意味する「ALife」の計算によって生命の機構をとらえようとする考え方が、20世紀から現代に至るまでの情報科学の系譜、また人工知能研究との関連の中で、どのように位置づけられるのかの概観を示します。
1.1 科学としての生命の定義
21世紀初頭の現在、現代科学はまだ生命の全貌を解き明かすには至っていません。20世紀を通して、地球上の生物の分類が劇的に進んだとはいえ、いまだ未発見の微生物が膨大に存在していることがわかっています。
また、生命的なシステムが行う発生、成長、遺伝、自己複製、適応、進化、分化といった個々のメカニズムについては理解が進んできましたし、クローン細胞や幹細胞などの遺伝工学の研究によって生命の発生をある程度デザインすることも可能になりましたが、そうしたすべての生命的な特性を統合して、一から生命体を作る段階にはきていません。
医学や工学といった領域は、人間に利するものを作るという強い目的に駆動されています。そこで扱われる生命の操作は、人間の病気を治したり予防したりすることや、生活の利便性や効率性を上げるため、という目的があります。人間の平均寿命は伸び続け、再生医療の発達によって難病の治療が期待され、創薬のプロセスにおいては人工知能の活用が効果を上げています。
また、遺伝工学の発展によって、親が子どもの遺伝を操作するデザイナーベビーの登場も現実味を帯びてきていますし、身体障害者の義肢が高度化し続ければ健常者を上回る身体能力を得られるようになります。また、マイクロバイオームと呼ばれる、生物の体内に無数に生息する微生物の働きが心身の健康へもたらす影響もわかってきており、有機栽培のビオ食品や人工的に培養された菌類が注入された食品が店頭に多く並んでいます。 ...
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