生成AI時代の価値のつくりかた ―実践者のマインド、スキル、データ、ユースケース
by Rob Thomas, Paul Zikopoulos, Kate Soule, 本多 真二郎, オライリー・ジャパン編集部
7章一つのモデルがすべてを支配するわけではない!
このフレーズに聞き覚えはありますか?
一つの指輪は、すべてを統べ、
一つの指輪は、すべてを見つけ、
一つの指輪は、すべてを捕らえて、
暗闇の中に繋ぎとめる。
あなたが熱心なトールキンファンなら、エルフの耳がピンと立ったことでしょう。そうでなければ、これがトールキンの不朽の名作「ロード・オブ・ザ・リング」の物語の根幹をなすものであり、この「一つの指輪」の碑文が所有者にすべてを支配する力を与えるものであることをご説明しておきます(厳密に言えば力を与えるのは碑文ではなく、サウロンが……などと語り始める人もいるでしょうが、その話は置いておきましょう)。まさに完全支配です。邪悪な話はさておき、ここで一つの疑問が浮かび上がります。果たして、たった一つのLLMがすべてを支配することになるのでしょうか(おそらくは、生成AIを世界に知らしめたChatGPTを巡る華々しい喧伝も一因でしょう)。
結論から言うと、私たちは全くそうは思いません。かすりもしない、というのが本音です。本書の前半で学んだように、Hugging Faceだけでも150万近く(本書を読んでいる時点ではさらに増えていることでしょう)のモデルが存在します。また、本書を順に読み進めてきた読者なら、「価値の利用者」と「価値の創造者」の違いを明確に説明でき、AI倫理やデータリネージについても理解されていることでしょう。つまり、なぜ単一のモデルがすべてを支配することなどあり得ないのか、その理由はすでにお分かりのはずです。しかし、ここではその「なぜ」について、より踏み込んだ答えを解き明かしていきたいと思います。まず挙げられるのは、最高性能のフロンティアモデルを開発しているAIラボでさえ、単一モデルでタスクをこなす技術革新から、複数のモデルや技術からなるシステムが協調してタスクを完了できるように支援する方向へとシフトしているという事実です。この章では、市場で今何が起きているのか、そしてどのようなトレンドや技術革新が生成AIの未来を牽引しているのかに光を当てていきます。小型モデルにおける急速な技術革新から、モデル内・モデル間のルーティング、さらにはエージェントシステムのエキサイティングな進歩に至るまで、すべてを支配する単一のモデルは決して現れないと私たちは確信しています。 ...
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