訳者あとがき
本書で、エンジニアリングに関する翻訳書は6冊目になりました。これまで5冊の翻訳を通して、多くの実践や考え方に触れてきましたが、翻訳しながら、これほど耳の痛い本はなかなかないと感じていました。
なぜそう感じたのでしょうか? それは、本書で語られているアンチパターンのいくつかに、これまで自分が書いてきた戦略文書の姿が重なって見えたからです。
たとえば、背景を丁寧に説明しようとするあまり、文書が長くなりすぎてしまい、肝心のメッセージが読者に届きにくくなっていたことがありました。また、戦略そのものはそれらしく見えても、運用の仕組みが甘く、時間が経つにつれて誰も参照しなくなり、結果として効力を発揮しなかったものもありました。書けば機能するわけではない。運用されてはじめて戦略になるのだと、本書は容赦なく思い出させてきます。
一方で、本書ほど価値のある本もそう多くはないと考えています。戦略に関する書籍は数多くありますが、抽象度が高く、読んだあとに「で、自分たちの現場ではどう形にすればよいのか?」が見えにくいものも少なくありません。その点で本書は、具体例を挙げながら、どのように考え、どのように書き、どのように運用していくかを示してくれます。だからこそ、理解にとどまらず、実際の現場に持ち込みやすいのです。この実装可能性の高さこそが、本書の大きな価値ではないでしょうか。
本書を読んで、あらためて痛感したのは、トレードオフの必要性だということです。「あれも頑張る、これも頑張る」と書かれた総花的な資料を目にすることは少なくありません。その際、重要なはずのリソース配分が書かれていないことがあります。なぜ抜け落ちるのでしょうか? リソース配分を明示すると、何を優先し、何を後回しにするかが露わになるからです。そこでは必ず緊張が生まれますし、ときには反発も起こります。 ...
Become an O’Reilly member and get unlimited access to this title plus top books and audiobooks from O’Reilly and nearly 200 top publishers, thousands of courses curated by job role, 150+ live events each month,
and much more.
Read now
Unlock full access