第8章
ユーザー自身を準備する
これまでわたしが見た行動変容に関する研究の中で最も優れたものの1つは、バージニア大学の社会心理学者ティム・ウィルソンによるものだ。学校でうまくいかず、将来について悩んでいる大学1年生を対象に、彼は実験を行った。無作為に学生を2つのグループに分け、1つめのグループには30分の短い介入を行い、もう1つのグループには特に介入をしなかった*1。
ウィルソンは、学生たちが自分を落ちこぼれとみなしていることに関心を持っていた。彼の行った介入は、そのような学生たちに、学校で悪い成績を取ることについての異なる解釈を与えるというものだ。
成績の問題が、落ちこぼれとは別の原因によるものだと示す事実と他の学生たちの証言を学生たちに伝えた。それは、入学当初はコツを覚えるのに苦労したとしても、大学生活を送るにつれて適応し、高校時代とは違ったやり方で勉強することを学び、良い成績が取れるようになる、ということだ。(Gilbert and Wilson 2011)
自身の悪い成績に対して再解釈をしたグループは、その後より良い成績を得ることができた。彼らの成績は卒業まで上がり続けたし、大学を中退する傾向も低かった。この研究では、彼らのすべての学業成績を完全に追いかけはしなかったが、その影響はすぐには表れなかったと推測される。どちらかといえば、最初の一押しの後、生徒たちは自分自身に対する見方を徐々に変え、勉強にかける努力の量を徐々に変えていったようだ。
たった30分の介入が、数年間の大学時代の成績を変えられたとしたら? すごいことだ。
ウィルソンは、「ストーリー編集(story-editing)」と呼ばれる概念の主唱者だ。彼が実験を行った学生のように、わたしたちは、自分自身に語るストーリー、「セルフナラティブ(self-narratives)」(Wilson ...