14章不可能を可能に
とある企業の全体会議。社員数85名のスタートアップだ。CEOが全員の前に立って話し始める。「これからの90日間で、我々は不可能なことを成し遂げなくてはならない」
「不可能なこと」というのが具体的に何であるかはこの際、問題ではない。問題なのは、その場にいた全員がCEOの言葉にショックを受けているということだ。誰も何も言わない。恐ろしいほどの沈黙が広がっている。その沈黙からショックの大きさがわかる。
「一体、何をどうしろって言うんだ」皆が心の中で叫んでいた。
「何の権利があって、不可能なことをやれだなんて言えるのか。そりゃ、確かに彼はCEOだ。だからって、何を言ってもいいのか? 彼がみんなの前に出て『空中浮遊マシン』を作ってくれと言ったら、我々は作らなくちゃいけないのか?」
そのとおり。作らなくてはいけない。CEOの指示には従わなくてはならない。
ただ、それはCEOが決して間違わないという意味ではない。
「不可能なことをやれ」と命じるのは、高度なマネージメントテクニックではあるが、エンジニアはこの種の命令を忌み嫌う。エンジニアというのは、「可能」と「不可能」を明確に分ける人種である。それが彼らの仕事だからだ。何かを評価する時、あるいは作る時には、まずそれが可能であるか不可能であるかを判断する。不可能であるとわかったことには取り組まない。不可能なことをしろと命じられると、苦笑するエンジニアが多いが、それは「この人はバカなことを言っている」と思うからだ。命令が不合理でバカげたものであるということを知っていて、それを証明できるだけのデータも持っているのだ。
だが、たとえ反論の余地がないデータを持っていたとしても、それで命令をしりぞけてしまうことは通常できない。不可能なはずのことをやり遂げられれば、それによるメリットは大きいからだ。それで当然、会社の士気は上がるだろう。競合他社がすべて不可能と考えていることを可能にしてしまったら、会社は驚くほど大きな金銭的利益も得ることになるだろう。フラックス・キャパシター ...
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