44章ソーホースクエアのチェロ
私たちがソーホースクエアでオードリーのチェロの演奏を聴いたのはそれが2度目だった。彼女はいつも適当なベンチを選ぶと、そこで演奏を始める。はじめて演奏を聴いた時、次がいつかわかったら教えてほしいと頼んだのだが、彼女は笑顔で静かにそれを断った。私たちは皆で協力し合うことにした。まず、彼女のルームメートのブルースには常に彼女の動向を見張ってもらう。彼女がチェロのチューニングを始めるのを見たら、私たちに即、知らせてもらうことにした。そして、彼女はチェロを持って家を出たら、それも即座に知らせてもらう。知らせを受けた私たちは大急ぎでソーホースクエアに向かうのだ。
春のソーホースクエアだ。オードリーはベンチを選んで、チェロを弾く。彼女はずっと1人で練習してきた。人前で弾いたことはなかった。広場での最初の「コンサート」は驚きで、2度目は喜びだったが、3度目は最後になった。見ていたのはブルース、ナターシャ、私の3人だったが、残念ながら私たちは皆、オードリーが飽きっぽい人であることをよく知っていた。
4年前はパンに凝っていた。2年前は建築だ。そしてここしばらくはチェロだった。オードリーの趣味は2年ごとに変わる。まるで時計のように正確だ。彼女は趣味に周りを巻き込むこともある。私たちにパンの歴史を長々と話して聞かせたり、自分の焼いたパンを食べさせたりもした。「死ぬほど食べたい」からと、私たちを引き連れてローズマリーチャバタを街中探し回ったこともあった。1人でこっそりと趣味に打ち込むこともある。チェロは知り合った頃からずっと彼女の部屋にあったのだが、演奏を聴いたのは本当に突然だった。それまではチェロについて尋ねてもすぐに話をそらされてまともに答えてもらえなかったのだ。
Become an O’Reilly member and get unlimited access to this title plus top books and audiobooks from O’Reilly and nearly 200 top publishers, thousands of courses curated by job role, 150+ live events each month,
and much more.
Read now
Unlock full access