
007
カイゼン・ジャーニー
Prologue
Prologue
終 わりなきジャーニー
「江島さん。ちょっと良いですか」
僕の席にやってきたのは、小柄な女性だった。すぐにずれ落ちる大きなメガネ
を右手で器用に上げながら、まっすぐと僕を見てくる。
「七里さん、ダメです。なってません」
もう、彼女から同じ内容の苦情を何度ももらっている。普段はチャットでやり
とりしているが、ラチがあかないと感じたのだろう、直接目の前までやってきた
わけだ。
「ちょっと待って。このメッセンジャー、もう終わるから」
彼女が来る直前までやりとりをしていたメッセンジャーに、急いで続きを打ち
込む。内容は、今月開催するコミュニティイベントの打ち合わせについてだった。
相手は、小町さんという社外の人。長く一緒にコミュニティの運営をしている間
柄だ。少ない言葉のやりとりでもだいたい、意思疎通ができる。
小町さんとのやりとりを終えて、目の前に佇むウラットさんに視線を向け直し
た。ウラットさんはタイ出身だが、日本に移住してからもう何年も経っていて、
日本語は流暢だ。最近新設されたQAチームの若きリーダーだ。
まずは、僕も何度となく返しているお決まりの言葉で返事をする。
「ウラットさん、七里の何がダメなの」
「七里さんは、テストというものをわかっていません。今回、彼が送ってきたア
プリに対して、QA チームが検出したバグは35件です」
ウラットさんは、本気で怒っているようだった。七里のチームには、ウラット
さんからテストのレクチャーを何度もしてきてはいるのだが ...