
148
しかしながら、この点については、重要な事実を見落としがちで
す。それは、「その他の人たちもまた同じように社会的証明の原理
に反応している」ということです(これを
「集合的無知」と言う)。
自分を守るために「みんながやっているから」という理由だけで
機械的に判断しすぎないように用心しましょう。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、人を説得する弁論術の
条件として、
「ロゴス(論理)」「パトス(情熱)」「エトス(倫理)」を
提唱しています。2,000 年以上が経った今でも人間の本質は不変で
あり、これら3つのうち、どれか1 つでも欠けると人を説得するこ
とはできません。
特に、エトスは倫理観や道徳観のことを指し、個人や組織の信用
と密接に関与しています。つまり、理解をうながすことや感情を動
かすことに加えて、話し手には信用が求められるということです。
当然、話し手自身の人柄や実績は重要視されますが、足りない分の
信用は他者から借りることができます。
たとえば、クレジットカードの作成や金融ローンの借入審査では、
必ず収入状況を問われます。長らく企業に勤めているとつい忘れて
しまいがちですが、これは勤務先の信用を借りていることに他なり
ません。お金が必要なことを論理的かつ情緒的に伝えなくても、会
社名を言えば一発で成約することもあるでしょう。
すなわち、説得では最初に「エトス」ありきであり、信用を獲得
することは最重要事項と言えるのです。