
デザイナーとして参画したとあるプロジェクトはわたしにとって非常に挑戦的
だったが、同時に得も言われぬやりづらさがあった。それが本書を書くきっかけに
なっている。当初このプロジェクトは、難航することはあれども、わくわくするも
のになる予感があった。比較的短期間かつ馴染みのない分野だったが、著名ブラン
ドのプロジェクトで、世界中の多くの人に見てもらえるようなデザインに参画する
チャンスでもあった。この類いのプロジェクトはいつも、たくさんの学びと成長の
機会を与えてくれるので積極的に取り組んできたのだが、このプロジェクトにはそ
れまでにはない特徴があった。デザイン上のいくつもの意思決定を、データの裏付
けもなしにプロジェクトの関係者に納得してもらう必要があったのだ。通常は何ら
かの定量または定性データがあるのでスムーズに進められるものだが、このときは
使えるデータがなかったので、納得してもらうためにいままでの方法は採れなかっ
た。既存のデザインを変更すべき根拠が全くない状態で、どのように初期のデザイ
ン案を検証すれば良いのだろう。ご想像の通り、デザインについての議論は、たち
まち主観と思い込みに支配され、さらに検証困難になっていった。
そこでふと思いついたのが、人の心の働きを深く理解するための心理学が、この
ような状況に役立つのではないかということだ。わたしはすぐに行動心理学や認知
心理学の広く深い世界にのめり込んだ。そして、これまでのデザイン上の意思決定
を裏付ける実証的な証拠を見つけ出すべく、気がつくと数え切れない研究の論文や ...